再販されるソフト達とその流通手段 |
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ソフトウェア、特にマイナーなものは、一度買いそびれると市場から消えてしまい、 それこそオークションだの、中古品だのに頼らないと入手できなくなってしまう事が良くあります。 メーカーが再販してくれれば良いのですが、そう都合良く事は進まないのがこの市場。 ……で、今回紹介するのは獣神ローガスのフロッピーディスク。 実は私が買ったのはオリジナルではなく、この画像で解るようにSOFBOX版のものでした。 エンベロープ等は紛失し、フジフィルムので誤魔化してますので、貧相さが際だってます。 あの当時、一度販売されて無事生産終了(でない場合もあるけど)したソフトが、 このように安価になって他のベンダーから「再販」される事が結構ありました。 今で言うところの「ベスト版」といったところです。 しかし、ユーザーにとっては安く再販されるのは嬉しい事なのですが、 メーカーからすると余りおいしい商売ではないらしく、こう言った再販商売は大抵破綻しています。 所詮「使い古し」の物を再度投入する訳ですから、 いくらコストダウンして投入してもやはり限界があるわけです。 ■ 書き換え販売とダウンロード販売という回答
SOFBOX版は主に書店などで扱われる販売流通でした。 しかし、通常の流通に頼る以上、古いソフトの再販は上手く行くはずがありません。 (所詮、売れなければ不良在庫です。) では、上手くソフトを再販させる方法は無いのでしょうか? それに対する回答的な存在として、当時ブラザー工業による「ソフトベンダー武尊(TAKERU)」と言う、 ソフトウェアの自動販売機のようなものがありました。 任天堂がやっていたディスクカードの書換システム「ディスクライター」や、 ローソン系列のコンビニエンスストアで実施されていた、スーパーファミコン、 ゲームボーイソフト用の書換サービス「ニンテンドウパワー」※1に近い物です。 ※1 ニンテンドウパワー ニンテンドウパワーは、コンビニエンスストア「ローソン」などに、 97年〜02年まで設置されていた任天堂ハード用ゲームソフトの自動販売機。 書き換えでしか手に入らないゲームなどもありましたが、あらかじめ専用のカセット (フラッシュメモリ+RAM式で、価格は3000円程度)を購入してから、このカセットを店の端末である、 「ロッピー」に差し込んで購入したいゲームを選び、その後カセットを店員に渡して書き換えて貰うという、 ちょっと面倒な手順が必要だった事もあり、あまり普及はしませんでした。 ■ ゲームソフトの自動販売機「TAKERU」
TAKERUは1986年に登場、大きめのパソコンショップの店頭などに設置されました。 現代風に言うと、コンビニエンスストアなどに設置されている情報端末機のようなもので、 外見は「大きな駅の券売機」と言う感じで、画面はタッチパネル※2になっており、 画面のパネルで購入したいソフトを選択し、料金を支払うと、 必要な枚数の生フロッピーディスクが払い出されるので、そのディスクを画面の指示通りに、 TAKERU内蔵のディスクドライブに入れて、その場で生ディスクに書き込みを行うと言う物でした。 ※2 タッチパネル式操作画面 80年代当時、タッチパネル式の画面は結構斬新で、私が利用したときは操作がわからず、結構戸惑った事を憶えています。 また、任天堂のディスクライターやニンテンドウパワーと異なり、TAKERUは全ての作業を自分でやらなければいけない上、 ディスクに書き込むスピードも結構遅いので、後ろに並んでいる人がいると結構緊張しました。 なお、このTAKERU、フロッピーディスクベースのゲームだけでなく、 カセットテープ媒体や、MSX用のROMカセット媒体のゲームも扱っており、 料金を支払うと生のテープやROMカセットが払い出され、 それをカセット挿入口に差し込んで、その場でデータを書き込むと言う方法を取っていました。 何というか、ある意味怪しげな海賊版ゲーム販売所のような雰囲気です。 そして、こう言ったデータの書き込みをやっている間に、 TAKERU内蔵のプリンターが、そのゲームの説明書をプリントアウトしてくれるので、 後はデータの書き込みが終わったディスクに、 付属のラベルを自分で貼り付ければ製品完成……と言う寸法でした。 パッケージがないと言う事を除けば、価格はパッケージ品よりかなり安く※3 また、TAKERUでしか購入できないゲームもあったので話題性十分。 (私AN-510はギルガメッシュ・ソーサリアンを購入しました。) しかも、ソフトウェアは通信回線を利用した、 ある意味「ダウンロード販売」に近い形を取っているので、 在庫切れで買えないと言う心配もなく、ユーザーは安心。 そして、店頭にパッケージの在庫を積み上げる必要もないので、 メーカー側も不良在庫に悩む必要がない。 古いソフトも、データベースの中に入れておくだけで良いので、無理をせずに販売が可能。 理想的かつ斬新なシステムの販売機でした。 ■ 先進的すぎたことの代償
しかし、栄光あれば影があるのがこの業界。 90年代以降、PCゲームという物自体が下火になってくると、 ソフト販売事業で利益を上げられなくなり、 このTAKERUも静かに店頭から撤去されていきました。 ファミコン・ディスクシステムのディスクライターの如く…… いくら良いシステムを構築できても、PCゲーム自体の人気が激減し、 土台が崩れてしまってはどうにもならなかったのです。 また、最新のゲームはTAKERU内蔵のHDDやCD-ROMからではなく、通信回線を使用して、 データをダウンロードして販売するという画期的な形式を取っていましたが、 当時の通信網はISDN程度が限界だったため、通信スピードが極めて遅く、 ダウンロード→データ書き込みの待ち時間が長大になりすぎ、 購入者の側としても一回の購入に数十分かかるようでは購入意欲が無くなるというデメリットや、 メーカーであるブラザー工業の側としても、売上より通信費用がかさんでしまうと言う、 本末転倒な状態も起きてしまい、これら色々な問題が重なり合って、 ソフトベンダー武尊の事業は1997年をもって終了してしまうのです。 良くも悪くも時代を先取りしすぎた存在でした。
※3 パッケージ品との差 ただ、パッケージソフトは店頭の特価セールなどを狙えば安く買えますし、 人気のないソフトはワゴンセールで1980円など、投げ売り価格を期待できるのに対し、 TAKERU販売はいつでも、どんなつまらないゲームでも、市場原理が働かず、 統制価格であるため、TAKERUの方が割高と言う逆転現象が起きる事もしばしばありました。 また、パッケージ品と価格に大きな差がないなら、パッケージ品を買って中古に売ると言う方法もあり、 基本的に中古で買い取ってもらえないTAKERU品の方が結果的に高く付くと言う感覚もありました。 これらもTAKERUが衰退した原因だと思います。 しかし、通信回線を利用したソフトウェアのダウンロード販売と言う、 極めて斬新なシステムはその後に生かされ、ブラザー工業系列の会社が、 このTAKERUのシステムを通信カラオケシステムとして再生し、大ヒットしました。 TAKERUの志は無駄ではなかった訳です。 現在ではソフトのDL販売は当たり前のように利用されていますので、 TAKERUのシステムは20年先を行っていたと言えるでしょう。 |